「熱き心に」は、プラチナの台座の造型に新味があり、ダイヤ・ルビー・エメラルド・オパール等の宝石の輝きが一層の冴え渡り、古典的な宝飾芸術の、現代的解釈を静かに伝える名作である。これほどの美の粋を、身につける女性は、どのような人物であろうかと、思いを馳せるのは、評者だけではあるまい。
文/クリスティーヌ・モノー
「希望」は作家の本領発揮の、華麗なジュエリーであり、その造形意匠の完璧さ、貴石の色合わせの見事さに、天才的な感覚が明滅し、女性ならずとも、作品の造化の神秘に心打たれるのではあるまいか。ラインストーンの処理の個性、天然パールの輝きへのこだわりなど、小品ながら手間のかかる、凝りに凝った作風は、正に日本を代表するジュエリー作家の魅力を余すところなく伝える。
文/クリスティーヌ・モノー
“永遠の時を刻む、神秘の貴石”
宝飾芸術と絵画を両翼に、圧倒の作品を手がけるアーティスト・佐伯和子。“花”を愛で、創作の原点とする佐伯の活躍は、国際的に名を馳せる存在である。掲出作「悠久の刻~華~」はブローチを主題に、ネックレスと合わせて謳い上げる、天然石の神秘と、作家の古代へのオマージュが現出した傑作と言えよう。およそ200年以前の輝きを保ち続ける鼈甲には、まるで淑女の胸元に飾られた宝飾の様なフォルムを魅せ、細やかな装飾が美しく、エメラルド・ブラウンダイヤ・シトリンが散りばめられている。その質感と色合いの美事さに天の才をも感じる。また、エメラルド・メノー・サンゴ・パール等で華麗に造化された“貴石の花”は、宝石それぞれの特性や色を吟味した渾身の逸作で、作家の造形意匠の完璧さに敬服する。この2作が奏でる詩韻と静謐な時間。感動がやまない。
文/デミトリス・ミタラス
太古の昔から人々は花を愛してやまない。
その心に咲き続ける感動を魂の花・幻想花として表現しています。
*パヤタイ・パレスとは、タイ国王ラーマ5世により創建され、以降ラーマ6世まで国王が居住された宮殿。
生命満ちる色の鼓動、魅了する青の新世界
魂を鼓舞し、武者震いさせるような、ヒトの生命力の発露そのものの原色絵画世界で、世界中を動天させてきた作家である。モティーフの自在、発想の卓抜、抜群のカラーリングの個性が相乗し、数々の伝説的作品が、海外で栄誉に輝いてきた。今回の新作「ある人物」は、従来とは一線を画し、力強いというよりは、カオス的な情動を放つ、寒色主調の作品で、表現領域の奥深さと画才の神秘を伝え、圧倒される。抽象に徹しながらも、謎かけのように、立体のパールが“人物の飾り”として実際につけられているところに、作品解釈の多彩と面白さがあると思う。またジュエリー作家ならではのユニークな発想により、一段と深みを醸し出している。
文/クリスティーヌ・モノー